不肖、ヤマザキ撮って参りました 浅草から徒歩10分ほどの距離に、隅田川に架かる唯一の歩行者専用橋「桜橋」がある。 この橋は形状においても橋上の雰囲気においても特徴があるので、何回か取材を試みたが、どうしても「写真」にならなくて、今まで掲載を見送らざるを得なかった。 冒頭の写真は桜橋上であるが、これだけでは変哲もない、どこかの公園にしか見えない。桜橋はX字形の、特殊だが美しい橋梁を持った構造なのであるが、橋の横からのアングルでは、ただの普通の橋にしか見えないし[A]、さればと橋のたもとから対岸に向けてシャッターを切ると、何が何だかわからない写真[B]になってしまう。
今回も諦めかけたとき、桜橋のすぐそばにある「台東リバーサイド スポーツセンター」が目に入った[C]。 「あそこから俯瞰で撮影できぬものか……」
旧・台東体育館、現・台東リバーサイド スポーツセンターの入口は隅田川側には無く、反対側のバス通りに面している。 ガラスのドアを開け、スポーツセンターの中に入ると、やにわに警備員に睨みつけられた。まあ、ガンづけされたくらいで逆上するもどうかと思われたので、相手にせず、館内の隅田川側に行く通路を探す。しかしそのようなものは存在せず、大きなガラス窓で仕切っているトレーニングジム内に入らないと、反対側に抜けるのは不可能な間取りになっていた。 仕方がないので入口近くに戻り、先ほどの警備員の方をチラッとみると、奴はいよいよ物凄い目つきで、こちらを見つめている[D]。
..... ここでちょっと話は脱線するのだが、どういうわけか、おれはこの種のガードマンと相性が悪い。いや正確に言えば、やつらが一方的におれを敵視するのだ。よっぽどアヤシク見えるのか。
おれは腰ミノいっちょうで、鼻からアブクを吹きながら、ジェット・ローラースケートで滑って取材しているのではない。いかにも「フツーのおじさん」の姿で歩き回っているつもりなのだが。 知性のキラメキというものが半獣人には眩しく感じるのか。どうなっておるのだ。 まー、こんな事をずっと書いていると、このHPの品格が下がるから、もうやめるけど、このようなことは枚挙にいとまがなく、書こうとすれば果てしなく書きつづけられる。けっこう苦労して取材してるのよ。好きでやってる事とはいえ、疲れるよ。 えーと、話は戻る。 しつこく警備員が睨んでいるので(公共の施設内なんだぜ…)とりあえず、そばにあった軽食コーナー[E]に入り、身を隠す。
ここで考えた。こちらの目的は屋上か最上階へ行き、桜橋の瞰写真を撮る事である。なまじ受付で許可を取ろうとした場合、拒否される恐れがある。その場合、 「うるせーよタコ !!」 などと言い放ち、階上へ昇ろうとすれば、警備員の必死のタックルで抱き付かれるのは分かりきっている。腰にすがりつくガードマンをズルズルと引きずって昇っていく気力はない。 カレーを食べながら、警備員の動静に注意をこらす。奴が知り合いと思われる人物と談笑をし始めた瞬間を逃さず、軽食・喫茶コーナーを飛び出した。 立ち話をしている横を、気配を殺し、なにくわぬ顔で通りすぎ、奥にあったエレベーターに乗ってしまう。 エレベーターのボタンの最上階は5回であった。 ( この項つづく ) |
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( 23日のつづき) 2/25 隅田公園 桜橋 2 公共施設特有の微妙な振動と微かな機械音をあげ、エレベーターは5Fに到着した。 目の前に真っ暗な、巨大な空間があった。[F]
目が馴れてくると、そこは大きな競技場であり、自分のいる所は観客席の最上部である事が判った。 桜橋の方角へと、暗闇の中を体育館の端をぐるりと回って歩く。[G]
「非常口」の灯火は点いていたので、この辺りと見当をつけて、ドアを開けようとした。 しかし、その扉にはカギが掛かっていた。これまでか、と諦めようとしたが、ドアノブの下に目を凝らすと、内鍵のつまみが目に入った。 つまみを回すとカチャリと音をたてて錠がはずれた。 もはや、ほとんど女子寮に忍び込む変質者状態である。 競技場観客席の扉の向こうは非常階段室であった。 その非常階段室の窓側には大きなスモークガラスがはめ込まれていて、絶好のアングルで桜橋を眺める事が出来た。
背後から誰かが追いかけてこないうちに、たて続けに4枚ほどシャッターを切る。 目的は果たした。もうここに用は無い。非常階段室のドアを、もとどおり内側から施錠し、小走りでエレベーターに乗る。注意深く2Fで降り、そこから階段を使って1Fに戻り(巧妙!) あとは野となれおしりぺんぺんベロベロバッキューンヒャーハッハで帰ってきた。 執念の桜橋・俯瞰写真を見よ!!
この項、まだつづく |
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( 25日のつづき ) 2/27 隅田公園 桜橋 3 付記
この項、次回 「桜橋・異相空間(仮題)」につづく |
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( 2/27日のつづき ) 3/3 隅田公園 桜橋 4 異相空間としての桜橋 遊園地や科学博物館などに「ミステリー・ゾーン」とか「トリック・ハウス」とか称した、錯覚を応用して、人間の体を実際より大きく見せたり小さく見せたりする施設がある。 実際に身長が伸びたり縮んだりするわけはないのだが、目と脳の錯視現象により、そう見えてしまう。 桜橋の橋上には、この錯覚とは違うが、ある特殊な錯視現象が起こっている。 通行人すべてが「映画『男はつらいよ』のエキストラ」になってしまうのだ。 学校がえりの高校生、買い物帰りの主婦、散歩中の老人、得体の知れない中年男。すべての通行人が、寅さん映画で役名もない、「とらや」で草だんごを食う参拝客とか、さくらと博が家路につく途中にすれ違う近所のおばさん等のエキストラに見えてしまう。 「男はつらいよ」に関しては言わずもがなであるが、しかしその桜橋橋上の「寅さん映画ほのぼのエキストラ現象」は不快なものではなかった。否、心地よささえ感じた。広い川面、川風、歩行者専用(自転車は通行可)という条件があって、東京人本来の穏やかさが自然に表出できる場所になっているのだろう。 おれとしては「寅さん映画」は渥美清というアナーキストが山田洋次というスターリニストっぽいひとに絡めとられてしまったような(←言い得て妙)感があり、おいちゃん役の森川信が亡くなってしまった頃から観なくなってしまった。 まー、今となっては、アナもボルもスタもトロもないのである。ほとんどの人に何言ってんだか分からん事を書くのはもう止めるけど、とにかく桜橋の橋上の共同平和幻想は、悪くない。 最近の映画や、いろんな種類の芸術の「過激な」表現に食傷気味である。 「人間」を描こうとするとき、戦争・破壊・殺人・暴力などを通しての表現になってしまうというのは、かなり安易なのではないか (そう考えると山田洋次ってのは、あなどれない)。ヒッチコックの例を出すまでもないが、残虐シ−ンは効果的に少なめに使った方が、心に残るのに。 「男はつらいよ・柴又地獄変」
……な、シロートでも、たちどころにこんな事は書けてしまうんだから。少なくともプロの人は、よくよく考えてほしい。 だとかなんだとか言いながら、 東京の空の下、今日も川は流れる。
この項、最終回 「『願い』とカブキくん(仮題)」へつづく |
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