4/17 根津 (文京区) |
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ヤマザキ報告 |
( 捜査日誌 ・写真) |
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●古書 桃李 [地図A]
東京メトロ 千代田線 根津
出口2より 徒歩20秒 |
名探偵失踪事件
皆さんはフランス人作家ピエール・カミの作品に登場する、ルーフォック・オルメスという名探偵を御存知ですか?
先日、monkey2で ( ―― さる事情で ―― と言いたいわけです。くだらん)、短編の推理小説を探していて、Googleで「推理 名探偵 短編 ユーモア」のキーワードで検索したところ、この作家と探偵に出っくわした。
「ミステリー・推理小説データベース Aga-Searchi.Com」によると
物語の全てが3、4ページのショートショートかつコント形式(戯曲形式)で語られているため軽快でテンポが良く、また著者独特のナンセンスなユーモアは一度読み出したら癖になりそうな怪しげな魅力を持っており、どんどん次の作品を読みたくなる、そんな楽しい気分の味わえるシリーズです。 |
と心をそそられる解説文が添えられていた。
しかもルーフォックはフランス語で「頭のおかしい」という意味であり、オルメスは「ホームズ」のフランス語読みとのことであったので、これはおれのために書かれた本ではあるまいかとまで思いこみ、即、読みたいと激しく欲した。
しかしここで難問に突き当たった。ルーフォック・オルメス物の短編集は全て絶版になっているのだ。Aga-Searchi.Comによると、「名探偵オルメス(1942年 大白出版)」は言うに及ばず、復刻版(1956年 芸術社)、や原本から何篇かよりぬいた「新青年傑作選4」や「人生サーカス」もすでに普通の本屋には置いていない。
古本検索サイトで調べてみると、すぐに手に入りそうなのは「新青年傑作選4 翻訳編(立風書房)」のみであった。これは複数の古書店が販売中の告知をしていた。ネットで注文しようと思ったが、記載されている古書店の住所を調べてみると、徒歩でも行ける根津にもあったので、一秒でも早く手に入れたかったので直接訪ねることにした。
古書店「桃李」には何の連絡もしないで駆けつけてしまったので、どうかと思われたが、お店の人は倉庫から「新青年傑作選4
翻訳編」を探し出してくれた。お目当ての本を待つ間、書棚の古書を見ていると「デニス・ホッパー 狂気からの帰還」とか「天明餓鬼草紙 浪人街 夢野京太郎/竹中労」とか「マルクス兄弟のおかしな世界/ポール・D・ジンマーマン 訳=中原弓彦・永井淳」とか、うっかりしていると、この書店から一生脱出できないかもしれないほど、おれ好みの本が並んでいたので、そそくさと代金を払いお礼を言って店を飛び出した。
購入した「新青年傑作選4 翻訳編」を抱きかかえるように持ち、小走りに不忍池の池畔のベンチ
[写真B] を目指した。幸いベンチは空いていた。ベンチの端に座り、函から出すのももどかしく念願の名探偵オルメスを読み始めた。
[写真B] |
一読して脳がひっくり返った。
たとえば「火葬にされた男の帰宅」では、警察署の前に、黒人でもないのに真っ黒な瀕死の男が倒れている。調べてみると体が黒色なのは、全身がインクまみれだからなのであった。推理の過程ははしょるけど、犯人(オルメスの宿敵のスペクトラ)のアジトを急襲すると、そこには12個の巨大なインク瓶に若手作家が一人ずつ机と共に入れられており、せっせと原稿を書き上げないと、徐々に増えてくるインクで溺れ死ぬ仕組みになっているのだった。
「道化師」では、短刀が胸に刺さった道化師の死体の口に、別の男の腕がヒジまで突っ込まれている怪事件を、たった3ページで解決していた。
1884年生まれの作家の作品とは思えないナンセンスぶりがおれを狂喜させた。
こうして名探偵探しの旅(←おおげさ)が始まったのだった。
この項つづく
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17日のつづき
4/25 月島 (中央区)
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●月島図書館 [地図A]
(月島区民センター3階)
東京メトロ 有楽町線
都営 大江戸線
月島駅 出口10より 徒歩10秒で区民センターに着く。後はエレベーターしだいだねー。 |
名探偵失踪事件 2
矢も楯もたまらず入手した「新青年傑作選4 翻訳編」に収録されていたのは「名探偵オルメス(全34篇)」から選り抜いた4篇のみであり、全篇を読み通したいと思うのが人情というものである。
この時点で判明していたオルメス物の出版物を改めて整理しておくと
名探偵オルメス (大白書房 ['42]) |
オルメス物の短編 34篇 |
名探偵オルメス 復刻版 (芸術社・推理選書3) |
同上 |
人生サーカス (白水社) |
オルメス物の短編 10編 |
ルーフォック・オルメスの冒険 (出帆社) |
「人生サーカス」の復刻版であるので同上 |
立風書房「新青年傑作選4 翻訳編」 |
オルメス物短編 4編 |
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であった。
当然、古書検索や、図書館の蔵書検索をした。著者欄に「ピエール・カミ」と書きこんで検索すると、東京の西東京市図書館と月島図書館だけに「ルーフォック・オルメスの冒険」が所蔵されている事が分かった ( 註 実際には事実誤認であるが、この検索方法では、国会図書館の蔵書からでさえ発見できなかった。次回詳述)。
月島なら、おれの住んでる上野から地下鉄・大江戸線で一本で行ける。さっそく翌日、月島図書館(写真)に押しかけた。
図書館員は非常に親切であり、月島図書館のある中央区在住でもないのに、貸出しカードを作ってくれた。本を愛する全ての人への好意が感じられた。嬉々として「ルーフォック・オルメスの冒険」を持ち帰り、むさぼるように読みふけった。
「仇討二重奏」事件では、6階から飛び降りた女が地球儀の中に首を突っ込んで溺死しているという、物凄いわけ判かんなさがおれの頭蓋内にドーパミンを噴出させてくれた(結末は書かない。前回 『火葬にされた男の帰宅』事件のネタバラシをしたが、これはミステリー紹介では、タブーなのである。でもこのまんまじゃ文学の歴史の中にピエール・カミが埋もれてしまうと思い、あえて罵倒の嵐を食らう事を覚悟して、記したものなのだ)。
「ルーフォック・オルメスの冒険」には10篇のルーフォック・オルメスの短編が収められていた(残念にも新青年傑作選に収録されていたものと重複)。残りのオルメス短編は24篇となった。読み通したい熱情はさらに燃えさかった。
月島図書館に本を返却しに行ったついでに、付近を散策。
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月島の路地。やっぱりいいなあ。 [地図B・C] |
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ちょっと無理のあるベランダ [地図D] |
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相生橋と中の島(北側) [地図E] |
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中の島南側 |
相生橋の中程にある中の島は江戸時代には月見の名所だったところである。カップルで訪れたなら、島の先端を船の舳に見立て、「タイタニックごっこ」が出来るかもしれない。
しかし、もし、おれがそんなところを見つけたら、絶対に真横でトリスかサントリー・レッドをあおって、ゲロ吐いてやるけど。
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この項つづく
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5/4 永田町 (千代田区)
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●国立国会図書館
東京メトロ 有楽町線
永田町駅 出口2より 徒歩3分
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名探偵失踪事件 3
[第1部]
月島図書館で「ルーフォック・オルメスの冒険」を借り出してからは、名探偵の足取りはふっつりと途絶えてしまった。「名探偵オルメス(大白書房)」か、その復刻版である「推理選書3(芸術社)」を血眼になって探したが、古書のサイトや図書館の蔵書検索ではどうしても発見できなかった。おそらく日本最強の図書館である国立国会図書館の蔵書検索でも結果は同じ。
国会図書館でニクイのは、芸術社の「推理選書シリーズ」は全11巻なのだが、「推理選書3・名探偵オルメス」の第3巻のみが欠落しているのだ。ネットの古書のオークションで、かつて14000円という高値 (しかも背表紙は、全面セロテープで補修してあるシロモノ)で取引されていた事実から見ると、かなりの稀覯本のようであった。
検索条件を減らす事を思い立ち、本の題名、出版社名などを入れずに、著者名を「ピエール・カミ」から単に「カミ」だけにし、「東京都の図書館蔵書横断検索」や古書検索の「スーパー源氏」で検索した。すると膨大な量のオルメス物とは無縁の書籍がヒットしてしまった。ピエール・カミナードという似たような名の作家はもとより、村上龍のムラカミまで拾ってしまうのだから、キリが無い。茫然としつつも1つ1つチェックしてみた。無かった……。
焦燥感と諦観と切なさがないまぜになったような日々が続いた。
諦めきれずに、何度もやった国会図書館の検索を、もはや夢遊病状態で繰り返した。国会図書館の蔵書検索設定がどうなっているのか分からないが、「ピエール・カミ」 「名探偵オルメス」では、1件もヒットしない。著者名のみで検索すると次の2件が検出される。
それまでは、この時点で諦めていた。しかし人間の無意識層とは偉大なもので、何の気なく「エッフェル塔の潜水夫」をクリックしてみたら「書誌情報」のページに飛んだ。そこの「個人著者標目
Cami,Henri(1884−)」を再度クリックしてみた。大当たり。見事に念願の「名探偵オルメス」にたどり着くことが出来た。
長い旅路であった。図書館側がどういうわけかフル・ネームではなく、姓だけで登録していた理由が良く分からないが、うれしいうれしいと8倍速ツイストを踊って勝利を祝った。
[第2部]
さっそく時間をひねり出して国会図書館に駆けつけた。国会図書館には初めて行ったので、書籍貸出し(館内閲覧のみ)の手続きにちょっとマゴついたが、図書館の案内員が懇切丁寧に教えてくれた。そうしてようやく念願の「名探偵オルメス(大白書房)」を手にした。
教えられた閲覧室へ行き、本を広げる。目次を見た瞬間電流が走った。そこには「催眠術合戦」の文字が。さ、催眠術合戦!?
例によって内容は書かないけど、題名だけで悶絶しそうになる。さらに幾つか先には
の文字が……。こ、この本は危険だ!!
静まり返った閲覧室に、手首を噛み、必死に爆笑衝動に耐えるおれの姿があった。
[第3部]
国会図書館のすぐそばにある特徴的なフォルムをした建造物は、1954年にゴジラがぶっ壊した後、われわれが改修工事をしてオフィスビルに使用していた建物である。
その後、運悪くバブル景気崩壊のあおりをくらって人手に渡る事になってしまったが、現在は風の噂によると、増え過ぎたニホンザルの一時収容施設になっているとの事である (ワニ園も併設)。
この項おわり
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