少し余裕が出来たので気がついた

 ―――これは「二階ぞめき」{注}ではないか?―――

 なあんだ。それならそうと早く言ってくれりゃ良いのに。そういうことなら、「ワールド二階ぞめき」というようなものを造って楽しませてくれ。しょーちしやしたってんで、どんどんそちら側へ雪崩れ込んでいきますと―――


[注] 『二階ぞめき』

 江戸中期(1770年頃)に成立した古典落語。
 大店の若旦那の吉原通いを心配した大旦那が、店の二階に吉原の女郎屋そっくりの歓楽街をつくり、そこをひやかして(ぞめいて)、遊ばせるという荒唐無稽な大傑作噺。


 実物大に作られた五重塔 [写真 1(中はゲタ屋) の屋根で、伊賀忍者が根来忍者に十字手裏剣を投げようとするが、間違ってマキビシをつかんでしまい、大袈裟に痛がっていると、大笑いをして足を踏み外した根来忍者は、「おのれ!妖術使い」とうめきながら転落して行く。

となりのピサの斜塔[写真 2]の横では、イタリア男が観光客の日本人女を口説きまくり、体重130キロの女房にハンドバッグでさんざん殴られる。

タージマハ−ル[写真 3CLICKの前では蛇使いがツイストを踊らせているコブラに腕をかまれてしまい苦しさのあまり、自分自身が踊りを踊っているように身をよじらせている。

ホワイトハウス[写真 4]CLICKの前ではFBIが女装[写真 5]囮捜査で犯人を捕まえようとするが、何のために女装しているのか本人にも分からない。CLICK

突然、ワシントン[写真 6]が天井からノコギリと枝と共に落ちてくる。不思議がっているその男の頭を撫で誉める父親。ピグミー[写真 7]は造花で作られた密林の奥から、毒の代わりにビタミン剤[写真 8]を塗った矢を100本放つが、すべてバッキンガム宮殿[写真 9]の前でVサインで記念写真におさまる山高帽と葉巻とステッキの男[写真 10]の背中に当たってしまい、鉄の女[写真 11]に叱られる。CLICK


 ・・・・・・・妄想から醒めると、やはりクーダラナイ 
( ココロのボス 調 ) 現実の真っただ中である。

 何でこんなに不機嫌であるのか。一言で言うと「『お台場における本当に人間が生きている』感」の欠如である。
 整備されていて美しいと思う感覚と、管理されていて窮屈であるという感覚が、脳内で天秤にかけられ、圧倒的に後者が優位になるのだ。他の街にある無分別な、「無思想の思想」といったものが、まったく無いからな。

 まあ、お台場全体がアミューズメント・パークと考えれば、生活の匂いや心の葛藤、勝利者の感涙、敗者の怨念等々が垣間見えないのが当然なのだろう。
 だが、、何者か分からない誰かの手のひらで転がらせられるのは、あまり愉快な事ではない。

 金をかけてあるだけあって、なかなかに洗練されたプレイスであるが
( 景山民夫 調 )、いくら巧妙に演出されても、所詮はバ−チャルであり、ホームレスや売春婦やアル中の私立探偵が住めないところでは、我々は息が詰まる。

 
ギャハハ、なんか、違うんじゃねえのか。( ショーグン・ヤマザキ 調 )

 
堕ちよ、滅びよ、驕奢の時代 ( 野坂昭如 調 )

 
ミナサーン!メヲサマシテクダサーヒ!( 小川直也 調 )

 
何でこんなに寂しい風吹く ( 種田山頭火 調 )

 
ケイコク!ケイコク!キケンガセッキン!キケンガセッキン!
スコブルキケン!!スコブルキケン!!
 (宇宙家族ロビンソンのフライデー 調)


しかし人々は何の疑問も、屈託も無く笑い、子供たちはハシャギ回り、楽しそうである。

お台場にはタクアンが良く似合う。              [地図D]

 ……もう、いいか……

 日本が世界に誇る伝統的保存食料 “タクアン” を小道具にして 「お台場と小粋な黄色」 写真集を撮ろうかと思ったが、その気力もどんどん失せていく。

[地図E]
[地図F]
[地図G] [地図D]



東京湾には水死体が良く似合う。



[地図 H]
ショーグン・ヤマザキは死んでも
タクアンを離しませんでした。


 
……帰ろう。……野良猫が初めて出会ったおれにも 「ニヒィーン」 と甘えてきた谷中に帰ろう。一面識も無いおばあさんが、寺の由来を語りはじめた根津に帰ろう。地下鉄の駅員まで親切な深川に帰ろう。無料の染織博物館で日本文化を熱く語る管理人がいる早稲田に帰ろう。ホ−ムレスのおじさんが 「8時にここにいればオムスビが貰えるよ」 と教えてくれた山谷・玉姫公園へ帰ろう・・・・・・

[地図 I]




 このままでは、腹のムシが、おさまらねえ。 
( 負け犬の遠吠え ) いつの日にか必ず復讐戦を挑む。その時には、誓って、我々流の「お台場」に仕立て上げてやる。逃げんなよ! ( 負け犬のすてゼリフ )

 今回はこれにて。






  

『明るく』『陽気に』『元気に』『前向きに』『ポジティブに』ブームを排す


 カッとしたついでに演説をヒトフシ唸っておく。

 ショーグン・ヤマザキがご幼少のみぎり、わが国には

     笑う事---→不真面目---→悪

     悩む事---→真面目---→善

という頭の悪〜〜いセンスが充満していた。

 チャップリンの映画で言えば、至芸である抱腹絶倒のパントマイムは評価されずに、 「泣かせ」 の部分にのみ価値がある、といった風潮である。

 それに引き換え、近頃はすっかり 「明るく」「陽気に」「元気に」「前向きに」「ポジティブに」ブームであり、「暗く」「陰気に」「苦悶し」「後ろ向きで」「ネガティブな」 事はそれだけで蛇蝎の如く嫌われるということになってしまった。おれとしては、めでたい限りである。

 ――――しかし、何かが違う。

 たしかに憂鬱なよりは、はしゃいでいる方が楽しいことは確かであるが、何か引っかかる。


○疑問A  「明るく・・・・・・(以下略)」は、そんなに正しい事なのか。
○疑問B  「暗い・・・・・・・(以下略)」は、それほど毛嫌いするべきことなのか。


 Aの疑問について。

 あなたが、もし奴隷だったとしたら、どうだろう。自分の境遇に何の不満も持たずに、 「 明るく、陽気に、元気に、前向きに、ポジティブに 」 日々をやり過ごし、奴隷としての人生をまっとうするのが最善の策なのだろうか???次善ではあるかもしれないが…

 Bの疑問について

 想えば日本の
(世界中も?)芸術には、ジャンルを問わず 「 苦悩 」 を題材にした名作が数多くある。
 おそらくそれらの名作の作者は、深い苦悩を体験し、それを昇華したからこそ、その作品を創造できたはずである。

 フラれた時に、 「暗い」 失恋の唄を聞いたり歌ったりすると、心が癒されるという事は、多くの人が経験している事だろう。人間の心とは不可思議のものだ。

 まー、 「苦悩」 などと大袈裟に言わなくても、暮れなずむ街に立ちつくす電柱を哀れに思い、涙する感性があるからこそ、もっと可哀想なのは、生涯にただ1度のキスもしてもらえないトイレブラシであろう、というような諧謔も生まれるのではないのか?


 ということで、あながち 「明るく・・・」 が正しく、 「暗い・・・」 が間違っているという訳ではない、という結論に、今、達した。
 
 断っておきたいのは、 「明るく・・・」 を完全否定しているのではない。つまり、


        「明るく」                     「暗く」
        「陽気に」                    「陰気に」
 真に    「元気に」   生きるため、時には    「悲しみ」    生きなくてはならない。
        「前向きに」                   「後ろを振り返って」
        「ポジティブに」                 「ネガティブに」


ということだ。変な日本語になったしまったが、言わんとしていることは、宜しくご理解願いたい
( ただし、時代が切羽詰っているのも事実なので病的に『暗く』なっている人には当てはまらない )

 このセコイからくりに気づかずに(あるいは敢えて目をつぶり)、ちょっとでも「真実」が近づいて来るのを自分のセンサーに感じると、あせりまくってバリヤーを張り、ターボかけて遁走しようとする人々の後姿には、みっともなささえ感じる。


 ついでに言っておくけど、「自分を信じて」 「自分らしく」 「夢はいつかかなう」 等の脳内麻薬を放出させるための、甘いワナに足元をすくわれる事なかれ。

 おれだったら昔ビートたけしの言った 「人生に期待するな!」 とか、数学者秋山仁の 「夢は破れる、努力は報われない、正義は負ける、でも、頑張る」 の方がグッとくるものがあるけどな。

 「自分らしく」 などと意識的にしないほうがよいと思う。そんなこと言ってたら、暴走族やヤクザ者はいつまでたっても献血に行けないじゃあないか。



 日本の 「 暗い 」、しかし珠玉の名作詩四篇を挙げておく。  ( 横書きが切ないなあ… )


     
      汚れっちまった悲しみに     中原中也
     

              汚れっちまった悲しみに
              今日も小雪の降りかかる
              汚れっちまった悲しみに
              今日も風さへ吹きすぎる
     
              汚れっちまった悲しみは
              たとへば狐の革衣
              汚れっちまった悲しみは
              小雪のかかってちぢこまる
  
              汚れっちまった悲しみは
              なにのぞむなくねがふなく
              汚れっちまった悲しみは
              倦怠のうちに死を夢む

              汚れっちまった悲しみに
              いたいたしくも怖気づき
              汚れっちまった悲しみに
              なすところもなく日は暮れる……




      
   悲しくてやりきれない     サトウハチロー
         
           
 胸にしみる空の輝き 今日も遠くながめ 涙を流す
           悲しくて 悲しくて とてもやりきれない
           この やるせないモヤモヤを だれかに告げようか

           白い雲は流れ流れて 今日も夢はもつれ わびしくゆれる
           悲しくて 悲しくて とてもやりきれない
           この 限りないむなしさの 救いはないだろか

           深い森の緑に抱かれ 今日も風の唄に しみじみ嘆く
           悲しくて 悲しくて とてもやりきれない
           この もえたぎる苦しさは 明日も続くのか 




          
 大漁     金子みすヾ

           
 朝焼小焼だ
           大漁だ
           大羽鰮の
           大漁だ。

           浜は祭りの
           ようだけど
           海のなかでは
           何万の
           鰮のとむらい
           するだろう。




          
 野茨と鳩        北原白秋
      
             
春はふけ 春はほうけて
            古ぼけた 草家のやねでよ
            日がな啼く 白い野鳩が
            啼いても けふは逝ってしまふ

            庭も荒れ 荒るるばかしか
            人も来ぬ 葎が蔭によ
            茨が咲く 白い野茨が
            咲いても 知られず散ってしまふ

              おお ほろ ほろろん
              ほろほろ おお ほろろん  

            空は空 いつも蒼いが
            わしゃ元の 嬰児じゃなしよ
            世は夢だ 野茨の夢だ
            夢なら 醒めたら消えてしまふ

            心から ようも笑えず
            さればとて 泣くにも泣けずよ
            煙草でも それじゃふかそか
            煙草も 煙になってしまふ

              おお ほろ ほろろん
              ほろほろ おお ほろろん

            春だ春だ それでも春だ
            白い野鳩が いてほうけてよ
            白い茨が 咲いて散ってよ
            こうして けふも暮れてしまふ

            日は暮れた 昔は遠い
            世も末だ 傾きかけた
            わしゃ寂びる いのちは腐る
            腐れて いつかは死んでしまふ

              おお ほろ ほろろん
              ほろほろ おお ほろろん


*               *               *

 ギャハハ!!
 なっ。
まいったか!!!

             



TOKYO SIGHTSEEING GUIDE  * USELESS ! *






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