少し余裕が出来たので気がついた ―――これは「二階ぞめき」{注}ではないか?――― なあんだ。それならそうと早く言ってくれりゃ良いのに。そういうことなら、「ワールド二階ぞめき」というようなものを造って楽しませてくれ。しょーちしやしたってんで、どんどんそちら側へ雪崩れ込んでいきますと―――
……もう、いいか…… 日本が世界に誇る伝統的保存食料 “タクアン” を小道具にして 「お台場と小粋な黄色」 写真集を撮ろうかと思ったが、その気力もどんどん失せていく。
|
「『明るく』『陽気に』『元気に』『前向きに』『ポジティブに』ブーム」を排す カッとしたついでに演説をヒトフシ唸っておく。 ショーグン・ヤマザキがご幼少のみぎり、わが国には 笑う事---→不真面目---→悪 悩む事---→真面目---→善 という頭の悪〜〜いセンスが充満していた。 チャップリンの映画で言えば、至芸である抱腹絶倒のパントマイムは評価されずに、 「泣かせ」 の部分にのみ価値がある、といった風潮である。 それに引き換え、近頃はすっかり 「明るく」「陽気に」「元気に」「前向きに」「ポジティブに」ブームであり、「暗く」「陰気に」「苦悶し」「後ろ向きで」「ネガティブな」 事はそれだけで蛇蝎の如く嫌われるということになってしまった。おれとしては、めでたい限りである。 ――――しかし、何かが違う。 たしかに憂鬱なよりは、はしゃいでいる方が楽しいことは確かであるが、何か引っかかる。 ○疑問A 「明るく・・・・・・(以下略)」は、そんなに正しい事なのか。 ○疑問B 「暗い・・・・・・・(以下略)」は、それほど毛嫌いするべきことなのか。 Aの疑問について。 あなたが、もし奴隷だったとしたら、どうだろう。自分の境遇に何の不満も持たずに、 「 明るく、陽気に、元気に、前向きに、ポジティブに 」 日々をやり過ごし、奴隷としての人生をまっとうするのが最善の策なのだろうか???次善ではあるかもしれないが… Bの疑問について 想えば日本の(世界中も?)芸術には、ジャンルを問わず 「 苦悩 」 を題材にした名作が数多くある。 おそらくそれらの名作の作者は、深い苦悩を体験し、それを昇華したからこそ、その作品を創造できたはずである。 フラれた時に、 「暗い」 失恋の唄を聞いたり歌ったりすると、心が癒されるという事は、多くの人が経験している事だろう。人間の心とは不可思議のものだ。 まー、 「苦悩」 などと大袈裟に言わなくても、暮れなずむ街に立ちつくす電柱を哀れに思い、涙する感性があるからこそ、もっと可哀想なのは、生涯にただ1度のキスもしてもらえないトイレブラシであろう、というような諧謔も生まれるのではないのか? ということで、あながち 「明るく・・・」 が正しく、 「暗い・・・」 が間違っているという訳ではない、という結論に、今、達した。 断っておきたいのは、 「明るく・・・」 を完全否定しているのではない。つまり、 「明るく」 「暗く」 「陽気に」 「陰気に」 真に 「元気に」 生きるため、時には 「悲しみ」 生きなくてはならない。 「前向きに」 「後ろを振り返って」 「ポジティブに」 「ネガティブに」 ということだ。変な日本語になったしまったが、言わんとしていることは、宜しくご理解願いたい ( ただし、時代が切羽詰っているのも事実なので病的に『暗く』なっている人には当てはまらない ) 。 このセコイからくりに気づかずに(あるいは敢えて目をつぶり)、ちょっとでも「真実」が近づいて来るのを自分のセンサーに感じると、あせりまくってバリヤーを張り、ターボかけて遁走しようとする人々の後姿には、みっともなささえ感じる。 ついでに言っておくけど、「自分を信じて」 「自分らしく」 「夢はいつかかなう」 等の脳内麻薬を放出させるための、甘いワナに足元をすくわれる事なかれ。 おれだったら昔ビートたけしの言った 「人生に期待するな!」 とか、数学者秋山仁の 「夢は破れる、努力は報われない、正義は負ける、でも、頑張る」 の方がグッとくるものがあるけどな。 「自分らしく」 などと意識的にしないほうがよいと思う。そんなこと言ってたら、暴走族やヤクザ者はいつまでたっても献血に行けないじゃあないか。 日本の 「 暗い 」、しかし珠玉の名作詩四篇を挙げておく。 ( 横書きが切ないなあ… ) 汚れっちまった悲しみに 中原中也 汚れっちまった悲しみに 今日も小雪の降りかかる 汚れっちまった悲しみに 今日も風さへ吹きすぎる 汚れっちまった悲しみは たとへば狐の革衣 汚れっちまった悲しみは 小雪のかかってちぢこまる 汚れっちまった悲しみは なにのぞむなくねがふなく 汚れっちまった悲しみは 倦怠のうちに死を夢む 汚れっちまった悲しみに いたいたしくも怖気づき 汚れっちまった悲しみに なすところもなく日は暮れる…… 悲しくてやりきれない サトウハチロー 胸にしみる空の輝き 今日も遠くながめ 涙を流す 悲しくて 悲しくて とてもやりきれない この やるせないモヤモヤを だれかに告げようか 白い雲は流れ流れて 今日も夢はもつれ わびしくゆれる 悲しくて 悲しくて とてもやりきれない この 限りないむなしさの 救いはないだろか 深い森の緑に抱かれ 今日も風の唄に しみじみ嘆く 悲しくて 悲しくて とてもやりきれない この もえたぎる苦しさは 明日も続くのか 大漁 金子みすヾ 朝焼小焼だ 大漁だ 大羽鰮の 大漁だ。 浜は祭りの ようだけど 海のなかでは 何万の 鰮のとむらい するだろう。 野茨と鳩 北原白秋 春はふけ 春はほうけて 古ぼけた 草家のやねでよ 日がな啼く 白い野鳩が 啼いても けふは逝ってしまふ 庭も荒れ 荒るるばかしか 人も来ぬ 葎が蔭によ 茨が咲く 白い野茨が 咲いても 知られず散ってしまふ おお ほろ ほろろん ほろほろ おお ほろろん 空は空 いつも蒼いが わしゃ元の 嬰児じゃなしよ 世は夢だ 野茨の夢だ 夢なら 醒めたら消えてしまふ 心から ようも笑えず さればとて 泣くにも泣けずよ 煙草でも それじゃふかそか 煙草も 煙になってしまふ おお ほろ ほろろん ほろほろ おお ほろろん 春だ春だ それでも春だ 白い野鳩が 啼いてほうけてよ 白い茨が 咲いて散ってよ こうして けふも暮れてしまふ 日は暮れた 昔は遠い 世も末だ 傾きかけた わしゃ寂びる いのちは腐る 腐れて いつかは死んでしまふ おお ほろ ほろろん ほろほろ おお ほろろん
|
TOKYO SIGHTSEEING GUIDE * USELESS ! * |